消費財(FMCG)業界は、常に変化と革新の波にさらされています。2025年9月初旬に収集された最新情報からは、大手企業の戦略転換、画期的なマーケティング事例、そして地球規模の規制強化の動きが見えてきます。本記事では、このダイナミックな業界の主要トピックを深掘りし、今後の展望を探ります。
1. 企業動向:CEO交代から新製品・協業まで
この時期、FMCG業界の各社は様々な動きを見せています。
• ネスレ(Nestlé) は、Freixe氏を解任し、NespressoトップのPhilipp Navratil氏がCEOに即日就任するという急なCEO交代を発表しました。これは企業統治リスクと戦略継続性が焦点となると見られています。
• ペプシコ(PepsiCo) はナショナルジオグラフィック協会と共同で「Food for Tomorrow」プログラムを立ち上げ、再生型農業の啓発と教育に取り組むことを発表しました。これはブランドESG(環境・社会・ガバナンス)の実装例として注目されます。また、NFL新シーズン向けの大型キャンペーン「PEPSI Tailgate Crashers」を始動し、タレント起用と現地体験でUGC(ユーザー生成コンテンツ)を喚起しています。
• プロクター・アンド・ギャンブル(P&G) は、ミニ・テンダーに対し株主へ不応諾を勧告し、投資家保護のコミュニケーションを行いました。2025会計年度の通期見通しでは、実売上横ばい、オーガニック売上+2%成長、EPS(一株当たり利益)成長を見込んでいます。
• ユニリーバ(Unilever) は、2025年上半期の業績でUSG(基盤的売上高成長率)が+3.4%(数量+1.5%、価格+1.9%)となり、粗利率は45.7%、B&M(ブランド&マーケティング)投資比率は15.5%(+40bps)と発表しました。マーケティング事例としては、「Dove×Crumbl」のコラボレーションが新規客比率過半数、32億超のインプレッションを獲得し、ソーシャル起点の需要創出の成功例となっています。また、製品設計において「ニューロシグナリング」を活用するなど、感覚知とR&Dを組み合わせた事例も紹介しています。
• ロレアル(L’Oréal) は、2025年上半期に売上高224.7億ユーロ、LFL(既存店ベース)+3.0%を達成し、地域ミックスとラグジュアリーカテゴリが牽引して営業利益率をさらに拡大させています。
• 花王(Kao) は自己株式取得の進捗を公表するとともに、高級スキンケアの新製品(SENSAI/KANEBO/Curél)を9月上旬に順次グローバル展開すると発表しました。これは高付加価値ポートフォリオ戦略の一環と見られます。
• ライオン(Lion) は、酵素を刷新した「NANOX one」を全面改良し、“Super Enzyme Complete Gel”として9月より国内発売を開始しました。これは洗濯カテゴリの高機能化を象徴する動きです。
• ユニ・チャーム(Unicharm) は、中国子会社からの配当金7億人民元(約140億円)を受領したことを発表し、単体PL(損益計算書)への影響と資本効率に注目が集まっています。
• コルゲート・パーモリーブ(Colgate-Palmolive) は、2025年第2四半期に売上高+1.0%、オーガニック売上+1.8%を記録しました。プライベートブランドやペット関連事業が一部影響したものの、Prime100の買収も完了しています。
これらの動きは、資本政策の継続や高付加価値ポートフォリオの追求、そしてコミュニティ接点の強化と体験価値の拡張といった企業の方向性を示しています。
2. 規制と社会動向:複雑化するビジネス環境
グローバルな規制環境は、FMCG企業にとって大きな課題であり、同時に機会でもあります。
• EUDR(EU森林破壊防止規則) は、大企業への適用が2025年12月30日、中小企業へは2026年6月30日に延期されました。ココアやパームなどのコンプライアンス難度や“意図せぬ副作用”が論点となっており、業界からの追加猶予要請も報じられています。
• PPWR(包装規則) は2025年2月11日に発効し、18か月後に適用されます。過剰包装の削減、再資源化、再生材利用義務、ラベル統一などが求められ、包装設計の抜本的な見直しが必須となります。
• PFAS(有機フッ素化合物) に関しては、米FDAが食品接触材関連のFCN(食品接触通知)35件を2025年1月6日に失効させ、一部在庫は2025年6月30日まで猶予されます。また、州法レベルでも製品カテゴリー規制が拡大しています。
• 日本の食品接触材規制 では、合成樹脂に関するポジティブリストが2025年6月1日に完全施行されます。これにより、海外サプライヤーも適合書類の整備が前提となります。
これらの規制は、トレーサビリティの確保、デューデリジェンスの徹底、包装の削減・再生材比率の向上など、企業の実務対応を大きく変えることになるでしょう。
3. 未来を拓く技術とトレンド:神経科学から生成AIまで
技術革新と市場トレンドは、FMCG業界の未来を形作っています。
• 研究・技術のフロンティア
◦ 消費財×神経科学の分野では、ユニリーバの「ニューロシグナリング」活用のように、情動・快楽・ストレス緩和を実証する処方や香り設計が進んでいます。“機能性実感”の科学的裏付けが差別化の鍵となります。
◦ プレミアム×機能性の追求は顕著で、ライオンの高機能酵素、花王やユニリーバ、ロレアルの先端素材・発酵由来原料を活用した製品開発が、単価維持と顧客満足度の両立を目指しています。
◦ 生成AIは、需要予測、パーソナライズされたマーケティング、クリエイティブの最適化といった現場実装が進展していますが、効果測定とブランドガバナンスが今後の課題です。
• 市場の構造変化
◦ ベインのCPGレポート(2025)は、体重管理薬の普及が消費者の需要断片化を加速させる可能性や、規制の複雑化が業界に与える影響を指摘しています。
◦ 市場では、インフレ後の節約志向とプレミアム欲求の併存といった「需要の二極化」が継続しており、ブランドやSKU(最小在庫管理単位)アーキテクチャの最適化が課題となっています。インドなどの新興市場でのボリューム拡大と欧州の鈍化といった地域差も顕著です。
4. 今後の注目ポイント(Watchlist)
FMCG業界の今後の動向を見据える上で、以下の点に注目が必要です。
• EUDR/PPWRの実務対応:年末から2026年上半期にかけての監査や当局ガイダンスの更新に注目が集まります。
• PFAS代替:防油・耐水機能の非フッ素化代替への切り替えや、ベンダー監査・残留検査の強化が重要となります。
• 主要企業の決算発表:特にPepsiCoの2025年第3四半期決算発表(10月9日予定)では、価格・ミックスとボリュームのバランスに注目が集まります。
• カンファレンス動向:バークレイズなどの主要消費財カンファレンスでは、年内のガイダンス更新の可能性があり、今後の市場予測に影響を与えるでしょう。
結論
2025年9月上旬のFMCG業界は、企業再編、サステナビリティへのコミットメント、そして規制の波という多岐にわたる課題と機会に直面しています。神経科学やAIといった先端技術の導入は、製品開発とマーケティングに新たな地平を切り開き、消費者の期待に応える高付加価値戦略が成功の鍵となるでしょう。これらの動向を注視し、変化に適応していくことが、今後の成長のために不可欠です。